MaaSとは何か。IoTが実現する未来の交通

MaaS(Mobility as a Service)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ひと言で表すと、MaaSとは、さまざまな移動手段(マイカー、公共交通機関、配車サービス、ライドシェアリングなど)を1つに統合したようなサービスです。

MaaSは、これからの移動手段を語る上で欠かせないキーワードです。そして、MaaSの実現にはIoT(Internet of Things、モノのインターネット)が深く関わっています。本記事では、MaaSとそれを支えるIoTについて、詳しくご紹介します。

MaaS(Mobility as a Service)とは

冒頭でご説明した通り、MaaSとは、さまざまな移動手段(マイカー、公共交通機関、配車サービス、ライドシェアリングなど)を1つに統合したようなサービスです。例えば、「目的地を設定するだけで、そこに至るまでに利用する電車やバス・タクシーのチケット手配や予約を一括で行ってくれて、料金も一括で精算できる」というようなアプリは、MaaSのアプリケーションの1つと言えます。

MaaSを利用することで、ドアツードアで交通がシームレス(連続的)につながり、利便性が向上することが期待されています。また、利便性を損なうことなくマイカーの利用を減らすことで、環境負荷も低減されます。

MaaSの歴史

MaaSという概念が一気に広まったのは2014年、フィンランドの大学院生が執筆した1本の論文によってヘルシンキ市が動いたことがきっかけでした。論文を執筆したのは、当時アールト大学に在籍していたソンジャ・ヘイッキラ氏。論文のタイトルは、「Mobility as a Service – A Proposal for Action for the Public Administration」。ヘルシンキ市の交通システムが向かうべき方向性を見出すべく、ヘルシンキ市都市計画局からの依頼で執筆されたものです。この論文を元に、ヘルシンキ市は2050年の交通ビジョンを策定。化石燃料に依存せず、さまざまな移動手段が統合されたMaaSの概念は、世界中で大きな反響を呼びました。

(参考:Mobility as a Service – A Proposal for Action for the Public Administration, Case Helsinki

ヘルシンキ市は2016年、MaaSサービスアプリ「Whim」をリリース。Whimでは、ヘルシンキ市内すべての公共交通機関(鉄道、路面電車、バス)、カーシェアリング、レンタカー、タクシーがアプリ内で統合されており、ルート検索、予約、決済が全てアプリ内で完結します。また、公共交通機関乗り放題の定額プランなども用意されています。このアプリがリリースされた後、マイカーの利用者は半減し、導入前に50%未満だった公共交通機関の利用率は74%に増えたということです。

(参考:whim | Mobility as a Service – The End of Car Ownership?

MaaSのレベル定義

MaaSは、各種サービスの統合度合いによって、レベル0からレベル4までの5つのレベルが設定されています。

MaaSのレベル定義

レベル0:統合なし

それぞれの事業者が独立で行うサービスです。各会社が独自で提供しているルート検索サービスやレンタカー予約サービス、駐車場予約サービスなどが該当します。利用者は、自分が利用する交通手段ごとに、ルート検索やチケットの購入を行います。電車を使う場合とマイカーを使う場合の所要時間の比較なども、個別に行う必要があります。

レベル1:情報の統合

異なる交通手段の情報を統合して提供するサービスです。例えば、目的地を設定したときに、電車とバスを使うパターンと電車とタクシーを使うパターンが比較できる、といったサービスです。このような機能を、マルチモーダルなルート検索と呼ぶことがあります。これは、Googleの提供するGoogle Mapなどで実現されつつあります。

レベル2:予約、決済の統合

レベル1(マルチモーダルなルート検索)に加えて、予約や決済機能が統合されたサービスです。日本ではまだあまり見かけませんが、例えば中国で普及している滴滴出行(Didi Chuxing/ディディチューシン)はこのレベル2に該当すると言われています。

レベル3:サービス提供の統合

レンタカーなども含めた多様なサービスを統合し、また定額制等の独自の価格体系をもつようなサービスです。先ほど少し触れたヘルシンキの「Whim」は、このレベル3に該当します。レベル3を実現するには、多くの事業者が協力し合う必要があり、日本国内での実現にはまだ時間がかかるでしょう。

レベル4:政策の統合

自治体や政府の政策目標に統合された状態のサービスです。都市交通が都市計画などと統合してデザインされ、官民一体となってサービスが推進されます。このレベル4に至るサービスはまだ登場していないとされています。

MaaSがもたらすメリット

MaaSは、私たちの暮らしにどのように役立つのでしょうか。MaaSがもたらすメリットをご紹介します。

渋滞の緩和

MaaSによって移動が最適化され、公共交通機関やライドシェアリングの利便性が向上します。その結果、マイカーの利用率が減少して渋滞が緩和されます。

環境負荷の低減

移動の最適化や公共交通機関・次世代モビリティ(セグウェイ等の電動の小型モビリティなど)の活用が進むことによって、環境負荷が低減されます。

地方におけるアクセス改善

ライドシェアリング(乗り合いのサービス)等の利便性が向上することで、これまで公共交通機関の手が行き届いていなかったような地方のアクセスが改善されます。

交通費支払いの簡素化

あらゆる交通手段の決済を一元化することで、支払いが簡素化されて利便性が向上します。MaaSはキャッシュレスの決済と相性が良いと考えられており、現金を持ち歩く必要も無くなるでしょう。

MaaSにおけるIoTの重要性

MaaSの実現には、さまざまなテクノロジーが必要です。中でも、あらゆるモノをインターネットにつなげるIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の重要性は際立っています。

MaaSを構成する各サービスは、インターネットを通じて連携します。したがって、多種多様なモノをインターネットに接続する必要があるのです。IoTを使う例として、駐車場の空き情報をインターネット経由で取得するために、インターネットに接続可能なセンサーを駐車場に設置する、という状況が考えられます。

他にも、自動車をIoT化してインターネットに接続し、運行情報や混雑状況、周辺の道路状況をリアルタイムに送受信する、といったアイデアも考えられます。特に、インターネットに接続できる自動車のことを「コネクテッドカー」と呼びます。さらに、MaaSに大きな影響を与える自動運転の実現にも、高度なIoT技術が求められます。

IoTについては以下の記事でもご紹介しておりますので、合わせてご覧ください。

日本におけるMaaSプロジェクトの具体事例

日本におけるMaaSの取り組みには、どのようなものがあるでしょうか。2018年に政府の「未来投資戦略2018」でMaaSが取り上げられて以来、さまざまなMaaSプロジェクトが発足しています。ここでは、日本国内で進められているMaaSプロジェクトの具体的な事例のいくつかをご紹介いたします。

スマートモビリティチャレンジ:経済産業省・国土交通省

スマートモビリティチャレンジは、2019年に経済産業省と国土交通省が立ち上げたMaaSのプロジェクトです。IoTやAIを活用した新たなモビリティサービスの社会実装に向け、

地域と企業の協働を促すことを目的としており、2019年度は、28の地域・事業を選定し、実証実験等への支援を行いました。

(参考:Smart Mobility Challenge|スマートモビリティチャレンジ

Woven City:トヨタ自動車

Woven Cityは、2020年にトヨタ自動車が発表した、「コネクテッド・シティ」です。トヨタ自動車の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能技術などを導入・検証できる実証都市を作るという壮大なプロジェクトで、街づくりに溶け込んだMaaSが実現することでしょう。現在、世界中の様々な企業や研究者などに対して、実証への参画を募っており、2021年には着工予定とのことです。

(参考:トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト

my route:トヨタ自動車

my routeはトヨタ自動車が開発したマルチモーダルなルート検索アプリです。決済機能も備えており、レベル2相当のMaaSと言えそうです。現在、西日本鉄道やJR九州の強力のもと、九州の一部地域で提供されていますが、今後対象エリアが拡大される予定となっています。移動手段の拡充も図られており、将来的にはレベル3相当のサービスとなるかもしれません。

(参考:my route[マイルート] 移動をもっと自由に、もっと楽しく

Universal MaaS:ANA、京浜急行電鉄、横須賀市、横浜国立大学

Universal MaaSは、ANA(全日本空輸)、京浜急行電鉄、横須賀市、横浜国立大学が共同で行っているMaaSプロジェクトです。これは、お体に不自由のある方にとっての障壁をなくすことを目的としています。

具体的な取り組みとして、車いすをご利用のお客さま向けのバリアフリー乗り継ぎルートナビアプリがあります。これを用いて、空港から目的地までの経路検索や、空港や駅構内・施設周辺のルート案内が確認できます。また、お客様を介助する事業者側も、お客さまの位置情報や属性情報を閲覧することができます。

(参考:Universal MaaSの社会実装に向けた連携開始について|プレスリリース|ANAグループ企業情報

他の業界へのIoT活用

IoTが活用できるのは、交通の領域に限りません。本メディアでは、さまざまな業界におけるIoTの活用方法・活用事例の紹介をしています。以下の記事も合わせてご覧ください。

製造業

農業

物流

小売業