株式会社バンダイナムコ研究所
イノベーション戦略本部
クリエイティブデザイン部
1月25日(土)・26日(日)に、株式会社Yoki / 株式会社バンダイナムコ研究所主催で「LOGY Makers with バンダイナムコ研究所」が開催されました。(イベントの様子はこちら → イベントレポート LOGY Makers (ロジーメーカーズ) with バンダイナムコ研究所)
このイベントのために、バンダイナムコ研究所のアソビのプロたちが総力をあげて、obniz Boardを使ったユーモアたっぷりの作品を制作。今回は、作品の制作経緯やアイデアの着想、そしてobnizの魅力について伺ってきました。
作品名「マッド遠山 怒りのデス・ロード」
アソビ × obniz 遊びのプロたちが本気工作
ストーリー
無銭飲食を繰り返す悪の一味を討伐すべく、激辛カレー屋でバイトする遠山がドローンに乗り込み激辛カレーを手に悪に立ち向かいます。
極悪ビークル(乗り物) に乗って自由自在に逃げ回る悪の集団、ドローンで必死に追う遠山。ドローンをビークルの上に着地させ、悪者たちに激辛カレーをお見舞いします。悪の一味はカレーの辛さで火を吹き、カレー屋さんからは祝福のクラッカーが鳴ります。
ここで登場するビークルは、obnizのAI Robot Kitがベースとなっています。ダンボール工作で装飾され、炎(に見立てた水蒸気)が噴射する仕組みやドローンの着地を検知するマイクロスイッチが仕込まれています。
カレー屋さんは、obnizのIoT Home Kitをベースに、クラッカーの紐を引っ張るモーターや配達完了を知らせる仕組みが仕込んであります。
– この度はobnizを使った素敵な作品を制作していただきありがとうございました。今日は制作の背景や経緯をぜひお伺いしたいと思います。
ではさっそくですが、今回の制作チームのメンバーはどういった経緯で集まったのですか。
中野渡さん
バンダイナムコと言えば、おもちゃやゲームを作る会社だと思われがちですが、私たちが所属するバンダイナムコ研究所は、遊びを拡張・研究して未来のエンターテイメントや遊びの種を生み出すことをミッションにしています。
今回のチームは、クリエイティブデザインという部署のメンバーが集まりました。
今回の制作に関わってくださったバンダイナムコ研究所のみなさん。()内は本作品での担当
左から順に、
市野塚さん(プログラム担当)
樺島さん(ストーリー提案)
芳賀さん(ハードの検証・実装)
遠山さん(ダンボール工作などのデザインやプランニング)
佐々木さん(ハードの検証・実装)
中野渡さん(プロデュース)
様々なバックグラウンドを持つメンバーで
新しい遊びや遊びの種を生み出しています
中野渡さん
普段からこのメンバーで、いろいろな”遊びのタネ”を考え、プロトタイプを作って検証しています。
遠山さん
仕事でやらされているというよりは、自分が楽しんでいるからこそ逆に「やらないと死んじゃう」みたいな、そういう性格の人が集まっていると思っていただいて。
中野渡さん
今回は、小中高校生が集まるイベントで、大人が本気だしたらこういう感じになる!っていうのを、子どもたちに紹介すれば、気持ちをたきつけてやる気が起こるのではないかという期待を込めて取り組みました。
“技術”は体験や演出を実現するための道具
おもしろさ優先、楽しさや遊びを伝える「体験設計」
– 作品のアイデアはどのように決まったのでしょうか。
遠山さん
まず見せ方が決まりました。最初にいきなり子ども達の頭の上でドローンを飛ばしたら、みんな「おーっ」と驚くだろうなと。子どもには、ビークルを操縦してもらって、僕がドローンで追いかける見せ方にすれば、きっと興味を引くはず。ドローンがビューンって飛んで、クラッカーがパーンって鳴る、派手な演出で楽しんでもらえそう…
といった形で、子ども達がどんな反応をするのかを念頭に置いてアイデアを膨らませていきました。
中野渡さん
技術要素の前に、体験設計をする。どういう体験/演出にしたら楽しそうかな、というのを思い描きながら作るというのがゲーム会社らしさですね。
遠山さん
本来、”技術”は体験や演出を実現するための道具で後からくるもの。私たちが考えると”おもしろいこと”優先になるんですよ。
– なぜ遠山さんがカレー屋でバイトしてドローンに?
遠山さん
見せ方が決まった後にストーリーを募集したんです。ストーリーが決まらないと、何を軸にどんなものを作るのかが決まらないので。
バンダイナムコで AIのサーバーが盗まれてそれを救出に…などいろんなアイデアが出てきたんですが、まさかカレー屋の案が採用になるとは(笑)
樺島さん
今回は割とやりすぎて良さそうな雰囲気でしたし(笑)
遠山さんをドローンに乗せることは決まっていて、じゃあその遠山さんに何をしてもらったらおもしろいかなーと考えて…ゲーム界のレジェンド※が、なぜかカレー屋でバイトしてるっていう設定がおもしろいんじゃないかと。あとは相手がダメージを受ける演出が決まっていたので、激辛カレー屋さんにしようと理由づけしていきました。
※遠山さんはゼビウスをはじめ、歴代の超有名なゲームを手掛けられた本当にすごい人です。
遠山さん
カレー屋さんは、まず名前から決めました。辛さ100倍のカレー屋さんの設定で「100辛tto(100カラット)」。カレー屋だけにインド人のおじさんが「ナンですと?」と言っているのもポイントです(笑)。
子ども達の創作意欲を引き出す工夫
– 技術的に工夫されたところを教えてください。
佐々木さん
私は炎を演出するユニットを作りました。超音波加湿器の蒸気を赤いLEDで照らして炎に見えるようにしています。本物の加湿器を分解して作り直しました。
遠山さん
ドローンが着地するところは、ドローンの風圧でマイクロスイッチを踏まないように網を張ったりとか。この網は園芸用のネットです(笑)
芳賀さん
ビークルには、机の上から落ちないように落下防止のセンサーを取り付けています。ここにはコピー機の紙の位置を検出するセンサーを使いました。必要な部分だけ取り出して配線を付け直したり。
ここにいるみんな、モノを分解して部品を取り出すのが大好きなんですよね。
芳賀さん
クラッカーを鳴らす部分は、遠山さんに「クラッカーをパンって鳴らしたい」っていきなり頼まれました(笑)。モーターでクラッカーの紐を引っ張っているのですが、強すぎても弱すぎてもダメなのでいろいろなモーターで実験、検証をしましたね。
– ダンボールを使うという部分にはこだわりや意図があるのでしょうか
遠山さん
子どもたちに「これなら作れそう」「やってみたい」と思わせたかったので、ダンボールを使うことにしました。それに、ダンボールでビークルを作って部分的に破いたり、絵の具で汚したりすれば、悪の一味っぽくなるのも良いと思って。
中野渡さん
センシングなど技術的な部分も、見て仕組みが想像できるようなアナログな方法で作ってあります。ドローンの着地は重さでスイッチを押していますし、クラッカーが飛んで看板が垂れ下がるのも針金とダンボールです。こうやったらできるのか!こういうことだったら自分にもできるかも!って想像してもらえたら嬉しいなと。
– 実際の制作にあたって役割分担はどんな感じだったんですか?
中野渡さん
それぞれの職能や得意分野が異なるので、アイデアを話していると、手が動き、実験がはじまり、役割が見つかっていくんです。そもそも呼吸をするように実験的にものを作ってしまうメンバーなので、発見が多く面白いチームですよ。
遠山さん
今回も初日の集まりは、全員でobnizを触りながら解析しました。その2時間が終わるまでに、ゴールまで全部分かってるみたいな。
樺島さん
今回は非常に楽しみながら作りました。
中野渡さん
今回はおもしろい素材があって、僕たちとしても子供心を思い出して思いっきりおもしろいことをやってみた感じです。
obnizは複数台の連携が簡単
起動からプログラム画面まですぐでした
– 今回、初めてobnizを使ってみて、いかがでしたか。
中野渡さん
読み方がわかりませんでした(笑)。
「object」+「nize」で「obniz」なんですね。現実世界のモノをオブジェクト※2 化するというのは良いコンセプトだと思います。
※2 オブジェクト: プログラミングでよく用いられる概念「オブジェクト指向」の用語で操作対象のこと
市野塚さん
Wi-Fiのパスワード入力で少し手こずりましたが(笑)、Wi-Fiが繋がった後は表示されたQRコードをスマホで読み取って、プログラムの画面まではすぐにたどり着けました。
– 今回の仕組みは、全てブロックプログラムで組まれたそうですね
市野塚さん
JavaScriptでのプログラムも検討しましたが、今回は全てブロックプログラムを使用して書きました。小中高校生向けの講習で紹介するということで、ブロックプログラムを使った方ががいいだろうと。
他の同様のビジュアルプログラミングの経験もあったので、obnizのキットのレッスンを見ながら同じように書いてみてある程度の動作はそれで認識できました。あとはobnizで実装されている特徴がどうなっているのかという部分を読み込むぐらいですかね。
市野塚さん
今回はobnizを2台連携させたのですが、複数台の連携も悩まずに実現できました。
Wi-Fiさえ繋がっていれば良いので、部屋の向こう側とこちら側というように、もっと離れたもの同士を連携させることも簡単にできそうですね。もっとおもしろいものが作れそう。
中野渡さん
普段の試作では、単体で動かすものが多かったんですけど、2台をリンク・通信させるということに対するハードルが下げられているというのは良かったです。
今回も周りで見てる人、あれこれどうやって通信してんのって興味持ったり驚いてくれましたね。作った後に驚いてくれるって重要ですよね 。
ビークルや悪者、カレー屋さんは、ダンボールでできているとは思えない完成度の高さ。観客を巻き込んで、動き回って、最後にあっと驚くしかけがあり、大人でもワクワクするような作品でした。
アイデアと工夫が詰まった作品で、アソビのプロたちの本気を見せていただきました。ありがとうございました!
Photo by Takahiro Ando