意志あるところに道は拓ける
11名のはじめの一歩

 日本初の医療者向けプログラミングスクール『ものづくり医療センター』第0期生 無事退院!
医療者たちの現場目線でテクノロジーはどう活かされるのか

2021年5月、ユニークな学校の創立計画が発表されました。『ものづくり医療センター』(通称:もいせん)と名付けられたその学校は、❝日本初の医療者向けプログラミングスクール❞ です。ここでは、教材の一部で『obniz』の製品・サービスが利用されています。
本記事では『ものづくり医療センター』が生まれた背景と共に、2021年6月から8月まで授業を受けた第0期生(トライアルコース)の授業内容や卒業制作発表会をレポートします。

なお、目次の🏥と🏠マークは第0期生の卒業制作です。「診療科目」や「テーマ」から気になるものをお選びになり、医療者視点のプロトタイプをぜひごらんください。

※本記事の内容、画像等の無断転載・無断使用は固く禁じます。

日本の医療の現状

医療関係従事者

医師・歯科医師・薬剤師・保健師・助産師・看護師・准看護師・
理学療法士・作業療法士・視能訓練士・言語聴覚士・義肢装具士・歯科衛生士・歯科技工士・
診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士・救急救命士・
就業あん摩マッサージ指圧士・就業はり師・就業きゅう師・就業柔道整復士

厚労省の統計調査などによると、2018年末時点で医師が31万1,963人、歯科医が10万1,777人、看護師・准看護師は155万8,340人、薬剤師は24万371人、そのほかに上に挙げた職種の方々を合わせると、日本には300万人を超える医療従事者(以下、医療者)がいます。
そうした医療者が日々接しているのは、世界のどの国よりも早く訪れた超少子高齢化社会で生きる老若男女の患者さんたちです。

日本の人口は2005年(平成17年)に減少へ転じた一方、30年間続いた平成時代に国民の寿命が5歳も延びたおかげで、令和に入った2020年には、平均寿命が女性 87.74歳、男性 81.64歳と過去最高記録に達しました。
「生涯現役」「人生100年時代」と聞けば何やら響きの良い言葉に感じますが、その裏で同時進行しているのは、「生産年齢人口の減少」「医療費の高騰」「都市と地方の医療格差」です。

そして、新型コロナウィルス感染症に象徴される未知の疾病も次々と出現する状況下で、医療者は知識や技術を常にアップデートし、限られた人員と時間内で患者さんをいかに守るかを瞬時に考えて、最善の手を打つことを求められています。
これまでの医学の知識だけでは解決しきれない課題が山積する医療現場で、いま最も必要なものは何でしょうか。

*生産年齢人口とは15歳以上65歳未満の人口を指します

『ものづくり医療センター』創立への想い

『ものづくり医療センター』は整形外科医 兼 医療機関理事長である、北城 雅照先生が、2021年6月に開校したプログラミングスクールです。

開業医として地域医療を支えながら、北城先生が心に抱いてきたのは
「医療に限らずどの業界でもテクノロジーがもっと必要で、そこに興味がある人も多いのに、学べる機会や場はなかなかない」
「現場の課題感を知っている人間が、その解決策を立てられるのが最善なはずで、その方法のひとつが『テクノロジーの力』だ」
「何が課題かを知っている現場の医療者こそが、テクノロジーの使い手になるべき」
という、真摯な想いでした。

もともと好奇心と向学心が旺盛な北城先生は、デジタルハリウッドやプロトアウトスタジオで実際にプログラミングを学んだことで想いが確信となり、医療者がテクノロジーを学べる場『ものづくり医療センター』(以下、もいせん)を自ら創りました。

入院後の治療

医療者対象のスクール『もいせん』では、入院から退院(入学から卒業)までの明確な “治療方針” があります。
具体的には「プログラミングやひとつの技術を学ぶことを目的としない」こと、そして「さまざまな技術に触れて学びながら、課題を認識できる力や、質の高い解決策を自ら生み出せる実装力を身に付ける」ことです。

変化の多い医療現場で柔軟かつ最適な解決策を採れるように、さまざまなテクノロジーを実践的に学ぶ治療計画(カリキュラム)が組み立てられています。 また、オンラインハンズオン形式でどんな場所からも治療を受けることができます。

2021年6月にトライアルコースが開講され、第0期生として11名の医療者が入院しました。
初回と2回目の講義では『obniz Board』と複数のパーツがセットになった『obniz Starter Kit』を利用し、自らのアイデアでIoTのプロトタイプを制作し、JavascriptやAPIも学びました。
obniz Board』はWi-Fi環境で専用クラウドとすぐに連携でき、プログラミングや対象物の制御をクラウドから全て行えるデバイスです。センサーやLEDなど各種パーツを直接挿して使えるため、プログラミング初学者でも3時間程度でIoT(モノのインターネット)を実現できます。

医療現場で使える実装力を重視する『もいせん』では、コードの書き方など細かな部分は自習領域にして、講義中はとにかくアウトプットを実践していきます。
思うようにできなかったことが思いのほかできるようになると、「もっと良いものを作ろう、そのためにどうしたら上手くいくだろう」と意欲やアイデアがさらに湧いてきます。それも『もいせん』で治療を受けるメリットです。

第0期生は入院期間中に、基本技術として IoT・Webアプリ・LINE Bot、応用技術としてAPI・機械学習・AI・AR・VR・iPaaS・ノーコードツールに触れて、それぞれの使い方と特長を把握しました。 その後は各技術を自由に組み合わせて試しながら、どんなことが実現できるかを考察していきました。

予定通り治療を終えた11名は、8月末に退院日である「DEMO DAY」を迎えました。「DEMO DAY」は、医療者としてそれぞれが抱いていた課題に対して『もいせん』で学んだテクノロジーを組み込んだ解決策を発表する大切な日です。掲載許可をいただいた方の発表内容をご紹介します。

※記事上での視認性や理解を助けるため、画像の一部は拡大・補正を行っています。


🏥整形外科

理学療法士 安藤様の発表
「腰部脊柱管狭窄症の受診遅れを防ぎたい!~評価から受診までをLINE-Botでアテンド~」

開発背景と概要

安藤様は、世界的アーティストBanksy の作品を見たのをきっかけに「自分のアイデアをカタチにすること」へ憧れを抱き、2020年夏からプログラミングを学んできました。

起立・歩行・寝返りなど基本動作のリハビリを行う理学療法士は、患者さんの身体機能のわずかな変化も見逃せません。 もっと早く受診してくだされば、最小レベルで解決できたというケースがこれまでたくさんありました。一方でご本人は、ここまで悪くなるとは思わなかったという意識でいらっしゃる。おそらく、医療者と患者さんそれぞれの判断基準の差が大きいからです」安藤様は現場で患者たちと日々接しながら、こうした課題を感じていました。

この日、安藤様が発表したのは「腰部脊柱管狭窄症」のリスクチェックをスマホで行えるシステム。
この疾患は重度になると手術が必要ですが、長く患っていると手術後も十分改善しません。また、進行すると歩行や排泄機能に障害が出る厄介な疾患です。本人が変化に気づきにくい疾患だけに、早めに状態を見極めてリスクを防ぐのが肝心だそうです。
安藤さんが考案したシステムでは、LINE Botを利用して姿勢や歩行の確認と症状チェックが行えます。同時に、入力内容はデータベース接続サービスからスプレッドシートに蓄積されます。利用者はそのまま診察予約と待ち時間の確認までできるほか、診察の際には医師がスプレッドシートを見ながらすばやく診断と治療を進められます。

セルフチェックから実際の診察・治療までが「シームレス」な設計で、使い勝手が良く非常に便利です。 今後は、機能追加やテストリリース、別の疾患を対象にした開発も計画中とのことでした。


理学療法士 竹内様の発表
理学療法士がエンタメ性のある公式LINE作ったら肥満患者を減らせる説

竹内様は理学療法士として治療に携わりながら、整形外科領域では肥満・運動不足・過剰な身体負荷がカギと感じているそうです。「特に、コロナ禍以降はテレワークにより運動不足が進んで歩数が減少したというデータもあり、社会課題も含んでいると考えています」

そこで竹内様は、可処分時間とスマートフォンの利用に目を付けました。例えば、30分の自由時間でNETFLIXのドラマとランニングの選択肢があると、多くの人はドラマを選んでしまいます。一方で、PokemonGOのようにゲーム目的だったものが、結果的に個人の運動効果や社会の経済効果を生み出した事例もあります。

今回考案されたのは、どう運動すべきか分からない方を対象にしたエンタメ性のあるエクササイズシステムです。利用者が所定の質問に回答(理学療法評価)すると、回答結果からレベルを判定(過負荷防止)し、レベルアップに従ってRPGのようにさまざまなキャラクターが登場して運動をさらに楽しめる仕組みになっています。LINE Botのスムーズな動きとダウンロードせずに使える点も活かされ、運動のきっかけ作りと継続性とが考慮された設計です。

「理学療法士としての専門性を活かして、楽しめる運動処方ができないかという視点で考えました。こうしたエンタメ性のあるもので運動不足が解消され、整形外科疾患を自然と予防するだけでなく、社会課題の解決に向かっていけないかと思っています」という言葉からは、患者さん目線で予防医療を目指そうとする強い意志が感じられました。


理学療法士 舘様の発表
IoTを理学療法へ活用 ~バランス・歩行における検査とフィードバック~

普段は都内の病院で理学療法士として働く、舘様。「こんなモノがあったら」と思うアイデアを自分で作りたい、という動機からプログラミングの学習を始めてみたものの、学習だけでいっこうにモノづくりに至らずもどかしかったようです。ある日、SNSで『もいせん』のことを知ったのが、第0期生に仲間入りしたきっかけだったとのこと。

そもそも理学療法とは、「病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法」(日本理学療法士協会)を意味します。そのプロセスでは、「治療方針の決定」と「治療効果の判定」のために、検査・測定・フィードバックを行いますが、検査によってはメリットがあっても煩わしさを感じさせるものがあるのが課題と感じていたそうです。

舘様は、今回のプロトタイプで「8 feet test」「 Functional reach test」 に焦点を当てて考えました。
まず「8 feet test」 では、立つ・歩く・座るという3つの動作をテストしますが、歩く時は「普通の速度で2.44m歩行し、その時間を測定せよ」と条件づけられており、準備が煩わしくなりがちです。
また、バランス機能を検査する 「Functional reach test」 は高齢者の虚弱、脳卒中、パーキンソン病など身体機能や疾患による転倒リスクを予測できる有益なものですが、対象者を壁際に立たせてから付せんを使って距離を測定する方法が、煩わしさと共に転倒リスクも生んでいます。

そうした課題を解消するために、Webページを軸に『obniz Board』と距離センサーを用いた検査の簡易化、スプレッドシートでの検査結果の管理、ウェブアプリによる対象者へのフィードバック、という仕組みを構築しました。
メインページで対象者のIDを入力した後に「8 feet test」では2.44mの歩行時間が自動計測され、「 Functional reach test」では開始と終了時にボタンを押せばデータが取得されるようになっています。
これらのテストの結果は、スプレッドシートに蓄積されると共に、対象者にはIDを紐づけたデータをApp Sheetでフィードバックします。

IoT技術の活用で、検査者と対象者の煩わしさを軽減するほか、限られたスペースでも測定可能になりました。しかも、データの手入力の手間がなく、データ共有により結果の比較やフィードバックが行いやすいのもメリットです。
今後は『obniz Board』の設置場所の工夫や、センサーに近づく以外の仕様も検討して改良したいとのことでした。


🏥脳神経外科

脳神経外科医 小林様の発表
『こっつん』ー軽症小児頭部外傷ー

開発背景と概要

小林様は過去に、脳神経外科医から起業家へ転身した経験があります。頭蓋骨に穴を開ける原始的な専門器具を改良したい、特に慢性硬膜下血腫の手術を簡単にしたいという想いから「ものづくり」に関心が湧き、起業へ至ったとのこと。医療系の機械学習やプログラミングを事業として起業したものの、当時はいずれの知識も無く、医師に戻った現在は現場の課題を解決すべくプログラミングやテクノロジーを自ら学んでいます。

『こっつん』は軽く頭を打ってしまった子供の診察で使われる医療現場での通称で、小林様は軽症小児頭部外傷での不要な診察やCT検査を減らすためのシステムにその名を付けました。医療機関では、頭を打った子供へのCT検査を保護者からよく希望されるそうですが、「本当に必要なケースはそう多くない」と小林様は言います。

「CT検査による子供たちへの放射線被ばくの影響を、僕は心配しています。CT検査を受ける回数が増えるほど、脳腫瘍や白血病のリスクが高めるため、子供たちへのCT検査はできるだけ減らしたいと考えています」
「必要かどうか判断できる基準はあります。しかし日本では、医療機関で検査機器が揃っており、小児の医療費も安く、医療機関にとっては検査するほど診療報酬が得られる側面もあって、CT検査が減らないのが現状です」

小林様が開発段階で気づいたのは、保護者は正確な病名などの診断よりもまずは安心を求めているという点です。それを踏まえて『こっつん』では、LINE Botから問診に回答して受診すべきか判断できるシンプルな設計にしました。
今後は、受診が必要な場合に搬送手段・公的サービス・地域の医療機関へ連携する設計や、当直中の脳外科医によるオンライン診療が受けられるプレミアム版の開発などを構想しているそうです。


🏥耳鼻科

耳鼻科医 元雄様の発表
「耳鳴診療用 LINE Bot開発」

開発背景と概要

「日常生活に支障を来たすレベルの耳鳴に悩んでいる方は、日本に約120万から360万人いるとされています。そして、耳鳴の原因にはさまざまな疾患が潜んでいます」
「正常な耳の聞こえは、音が電気信号に変換されて脳で感じる仕組みになっています。例えば、難聴が原因の耳鳴の場合は、高い音を頑張ってきこうと脳が働くために高音の耳鳴が響くことになります。しかし、自律神経失調症が原因ですと、難聴を伴わないため他の耳鳴とは症状が異なります」

「耳鼻科は、耳鳴に限らず幅広い領域の疾患に応じています。患者さんにとっては、ご本人に聞こえている耳鳴を医療者に分かってもらえないという不安があり、それが最大の課題です」

元雄様が考案したのは、LINE Botを利用して 4つの音階を聴かせることで、どんな症状でどんな種類の耳鳴かを判断できるシステムです。このシステムを利用することで、どういう疾患を原因とする耳鳴かををおおよそ予測できます。また、自律神経失調症など難聴を伴わない耳鳴であっても、医療者が状態を把握できます。

今後は、現在の純音4音階の音声ファイル以外に種類と音階を追加すること、めまい・吐気・頭痛などの耳鳴に伴う症状の問診も加えて受診までの解決策も提示可能にすること、全体のUIを向上することを検討しているそうです。


🏥救命センター

救命医 石澤様の発表
「中毒診療支援LINE botアプリ」

開発背景と概要

救命センターで働く石澤様の専門領域は、集中治療(ICU)です。例えば、大手術を受けた方や救急搬送された重症の方、または、入院中に容態急変された方に対して即時に対応するのが救命医の役割です。

石澤様が治療する患者さんのなかには、何らかの中毒症状を起こしているケースがあります。医師はご本人からの申告内容、あるいは周辺の情報から中毒物質を推定して、治療法を決定するプロセスとなります。

「中毒物質の推定は、一般的なイメージ的だと(ドラマ「科捜研の女」のように)何か化学的に分析して…といった感じかと。そうした作業をやっていなくもないのですが、実際はもっとアナログです。例えば、薬の服用であれば、現場に落ちている空の薬包で何の薬物かを確認します。医薬品は同じ成分でも一般名と商品名が異なるため、その点もチェックします。そして、それが50mg処方だとして、空いている薬包が10個あれば500㎎飲んだんだな、と推定するわけです。かなり地道な作業です」

「中毒物質が特定できてから治療法を決めるのですが、これもアナログです。しかも、薬は1種類だけでなく、複数飲んでいるケースも多いため、それぞれに対しどう注意して治療するかをひとつずつ情報でチェックしていく作業が必要です。この方法は少なくとも、この10年変わっていません」

石澤様は『もいせん』で学んだテクノロジーを使って、これまでアナログで時間のかかっていた薬物中毒の処置をより効率的にできないかと考えました。LINE Botを活用して今回開発したのは、薬物の一般名を入力するとそれぞれの対処法が出てくる仕組みです。ごくシンプルなシステムですが、これまでの方法と比べると圧倒的に効率が良く、
また、持ち歩きやすいスマホを利用するためどこでも使いやすい
ですね。
石澤様はこのシステムに、OCRでの薬物をカウントする機能と商品名を一般名に変換する機能を加えるとより便利になりそうだと考えているようです。

プログラミングの予備知識はまったくゼロで『もいせん』に参加したという、石澤様。
「プログラミングに限らずいろんなアプローチが学べたこと、自分でも制作できたことがとにかく楽しかったです。そして、皆さんの発表を聞いていると、それぞれが抱えている課題感について同じ医療系の自分はすごくよく分かりますし、異なる世代や立場の方たちが同期として一緒に学べるのも良かったです」と、感想を述べていました。


🏥医学生の実習補助

消化器内科医 永井様の発表
「医学生のための臨床実習補助アプリ」

開発背景と概要

永井様は卒業制作にあたって、「ご自身のいまの実力で制作可能なこと」「誰かに使ってもらえること」「完成後も感想を確認・検証してアップデートし続けられること(Build-Measure- Learn)」の3点をポイントにしました。それらを踏まえ、勤務先の医学部付属病院 消化器内科で行う医学生の臨床実習のサポートアプリを考案しました。

医学生たちが医療機関に赴いて、一定期間に入れ替わりながら行う臨床実習。慌ただしい医療現場では、実習期間中に情報共有や連絡のタイムラグなどアクシデントも起こりやすいそうです。

永井様はノーコードツールAdaloを中心に活用し、学生の予定表・集合場所の地図・学生たちの名簿・医師のPHS番号一覧などの基本情報と、臨床で知っておくべき専門用語集や参考動画をそれぞれすばやくきちんと把握できる、整然としたUIで仕上げました。
今後はこのアプリのアップデート以外に、海外からの留学生向けに空港からの交通案内・滞在住居の地図・医局のWi-Fi情報・近所のスーパーなどの情報が把握できるアプリの開発も構想中だそうです。

「『もいせん』で学びながら実感したのは、情報探索能力が最も重要だということです。コードや使い方などはネット上でかなり見つけられるので、情報探索能力でそうした有効な情報をいかに早く入手して、自分のやりたいことに集中して取り組めるか、だと思います」
このように課題や目標が明確な方ほど、アウトプット重視で実装力を身に付けられる『もいせん』はフィットするのではないでしょうか。


🏥医療機関の情報発信

整形外科医 北城様の発表
「自分でできる!0円で自院の公式LINEアカウント作成&運用」

開発背景と概要

「DEMO DAY」10日前に完成したばかりだったクリニックの公式LINEアカウントについて、『ものづくり医療センター』校長でもある北城様からの発表も行われました。
北城様はプログラミングを学びながらさまざまなプロトタイプを制作し、ご自身のアイデアで開発したVRサーフィンでクラウドファンディングにも成功した経験があります。一方で、実際にプロダクトとして世に出したものがまだなかったこと、加えて、理事長を務めるクリニックでいくつか課題を感じていたことから、開発に至りました。

「ホームページから診療予約ができるものの、番号予約の取りにくさと予約確認しにくい点が気になっていました。その他に、医療コラムサイトも運用していて、診察時によくお伝えすることも載せているのですが、できるだけ患者様を誘導して正しい知識を得てほしいという気持ちもありました。それと、クリニック側から患者様へ情報をPUSHできる経路を確保したいという考えもありました」
受診する方たちにとって望ましい機能性の装備と情報設計を行えば、医療機関においても大きなメリットとなります。北城様は、その手段のひとつとして公式LINEアカウントを制作しました。

このLINEアカウントからは、クリニックの公式サイトへのリンク、診察予約と確認機能、その他に患者様の啓発につながる情報や、特定の症状でおおよその診断ができるメニューも用意されています。これらは無料のプラットフォームなどを活用し、北城様が自身の知識やアイデアで実装したため大きな費用をかけずに完成しました。医療者がプログラミングスキルとテクノロジーの知識を持てば、現場課題をしっかり解決できることが明確に分かる発表でした。


🏥医療機関の受診フロー改善

看護師 林様の発表
「より快適なクリニック受診体験を」

開発背景と概要

デジタルハリウッドで学び、さらにこの『もいせん』でもテクノロジーの知識を深めた看護師の林様。別名「ものづくりナース」として、日頃からさまざまなアイデアを練っています。
今回発表したのは、看護師として気づいた患者さんの「困りごと」を解決するための3つのツールです。

最初に発表したのは、スプレッドシートとGoogleカレンダー、LINE Botを活用した「医師の情報が分かるシステム」。在勤している医師のリスト、クリニックの医師の1か月の予定表、当日診察している医師が確認できるため、診察を受ける前の患者さんの不安も軽減されます。

次に、LINE Botを活用した「聴覚に不安がある方や困った方へ次のご案内ができるシステム」。希望する方のユーザーIDをクリニック側で取得して、LINEの画面上で受付番号の通知、診察室や処置室への誘導、お会計の呼び出しなどができます。

最後は、Webアプリを活用した「聴覚に不安がある方への診察を音声認識でテキスト化させるシステム」。医師の話す内容をテキスト化し、LINEまたはLIFFで送る仕組みを開発中だそうです。

「『また行きたくなる 楽しい医院』が私のコンセプトなので、それに準ずる、より快適な受診体験を提供したいです」 という林様の言葉通り、医療機関に行ってから帰宅するまでの患者さんの気持ちと行動に寄り添うアイデアばかりで、他のメンバーからも感心の声が上がっていました。


🏠医療者として家族として

研修医 江崎様の発表
「『いつもどんな時も』obnizによる活動見守りセンサー

開発背景と概要

「私の祖母は、中国に住んでいます。コロナ禍でなかなか会いに行けず、祖母が体調を崩したと聞くとやはり気になります。もちろん、電話で話すことはできます。でも、普段の生活のなかで活動や様子を見守りたいですし、相手にもこちらが見守ってあげていることを伝えてあげられたら、と考えました」

遠方に住む家族の「見守り」サービスはいろいろな種類で商品化されていますが、江崎様は『obniz Board』と距離センサー、そして音楽の力を活用して、遠くのご家族を想う気持ちを IoT化しました。
距離センサーを挿した『obniz Board』に相手が近づくと、IFTTTからLINE notifyでスマホに通知が送られて、相手が活動していることが分かります。同時に、相手のお気に入りの音楽を自動的に再生させることで、こちらが見守っていることを自然な形で知らせることができます。

江崎様はこのシステムに、Spotifyを利用して相手に届ける音楽を毎日変える機能や、LINEグループを使って訪問介護やリハビリのチーム内で被介護者の様子を確認できる機能、相手の活動回数をグラフにして長期的な推移や変化を確認する機能などの追加も構想しているそうです。


第0期を終えて

校長 北城 雅照先生からのメッセージ

第0期(トライアル期)を始めるまでは「本当にプログラミングを学びたい医療者なんているのだろうか」と半信半疑でした。しかし、フタを開けてみると11名もの方が『もいせん』の思いに共感し、参加してくださいました。
やはり、医療界でもテクノロジーの力を実装したいと考えている方は多い、と改めて実感できました。 そして、カリキュラムを修了する頃には、自身の抱える課題に対して本人ができる解決策の「種」を参加者全員が見つけることができ、安堵しています。

この「種」を大きく育てていくのは、ご本人次第です。とはいえ、ご自身が感じた課題感から生まれたものですから、これからきっと皆さん1人ひとりがそれぞれの種を少しずつ成長させていくはずです。私たちは皆さんの持つ種がずっと成長し続けられるよう、引き続きサポートしていきたいと考えております。

医療現場での課題を解決するテクノロジーの「種」を一緒に探したいという方は、ぜひとも第1期以降のコースにお申込みいただけますと幸いです。


『ものづくり医療センター』は、医療現場での課題を自ら解決していきたいという想いを持つ方が同じ志を持つ仲間たちと共に学べる、日本で唯一の医療者向けプログラミングスクールです。
ご関心のある方、学びたいという意欲のある方は公式サイトをぜひごらんください。

ものづくり医療センター

講義のレベルや身に付けたいスキルに応じて選べる「3タイプの入院コース」
2021年10月より、第1期開校!